看護師をやっていれば、誰もが一度は経験する「看取り」。
看取りの看護って、とても難しいですよね。
患者さんとご家族がその人らしい、尊厳を持った最期の時を過ごせるよう、支援するのに正解はないし、やり直しはききません。
これでよかったのか、もっとできることがあったんじゃないか、そういう気持ちになったことが、あなたもあるのではないでしょうか?
私も10年以上看護師をやってきて、多くの最期の時に立ち会ってきましたが、完璧な看護が出来たなんて思ったことは一度もありません。
でも本当は、最も完璧な看護を受けなくてはならない時でもあるはずなんですよね。
だから私たち看護師は、常に完璧な看護を目指して、最期の時に精いっぱい寄り添わなくてはなりません。
看取りの看護に正解はないからこそ、モヤモヤした気持ちを抱えがち。
今日はそんなもやもやした気持ちが少しでもスッキリするように、私の病院勤務での経験も踏まえながら、看取りの看護のポイントやコツをお伝えできればと思います。
看取りの看護における看護師の役割とは
まずは、看取りの場面において看護師は何をしなくてはならないのかを改めて考えてみましょう。
看取りの場面で最も大切なことは、患者さんがその人らしい最期の時を迎えることができる。
そして、家族がいるならばその家族も納得してその時間を共有できるようにする、ということではないでしょうか。
では、そのかけがえのない時間を作るために看護師は何が出来るでしょうか。
- 苦痛の緩和
- 療養上の世話
- 意思決定支援
- 他職種と患者・家族との橋渡し
これらの役割を果たすためには、通常の看護よりさらに個別性が求められ、難しさが増します。
だからこそ、悩む看護師も多いんですよね。
では、何にポイントを置いて看護をしたらよいのでしょうか。
看取りの看護のポイント
看護師の役割ごとに、看護のポイントを押さえておきましょう。
苦痛緩和
患者さんが抱える苦痛は痛みだけではありません。
呼吸困難感や、体を思うように動かせない苛立ち、死への恐怖など苦痛は様々です。
また、死期が迫れば迫るほど言葉での表現は困難になります。
看護師は言葉だけではなく、患者の表情の変化、呼吸や脈拍が促迫していないかなど細かな観察が大切です。
【ポイント】
全人的な苦痛の緩和に努めるめに、些細な変化も見逃さない観察力を身に着けよう!
療養上の世話
自分の体をうまく動かせなくなれば、日常生活援助も必要となります。
看取りの時期に行われる日常生活援助は、清潔の維持よりも安楽へのケアという意味合いが強くなります。
体の向きを変えるだけでも、患者さんに負担がかかることもあります。
仕事の効率を考えて無理に1人でケアをしようとせず、患者さんの負担を最小限にすることを最優先に考え、複数人でバイタルを見ながら慎重に行うことが大切です。
【ポイント】
清潔ケアはより安楽な方法を選択し、患者への負担を最小限に努めよう!
意思決定支援
患者、家族双方の思いを共感的態度で聞き、共に考える姿勢が大切です。
医師の説明を正しく理解できているかの確認と補足説明を行い、患者やその家族が気持ちを表出できる場を提供しましょう。
【ポイント】
共感的態度で接し、患者やその家族が自らの意思を表出できるように努めよう!
他職種と患者・家族との橋渡し
看取りの援助に正しい形はありません。患者の数だけ看取りの形があります。
それだけ、個別性が重要視される看取りの援助には、医師や看護師だけでは限界があり、薬剤師やPT、MSWなど様々な職種が関わることで、幅の広い看取りのケアが行えます。
看護師は、この他職種と患者家族との橋渡し役として連絡を密に取り、円滑にケアが受けられるよう調整することが大切です。
【ポイント】
患者家族が望む支援が受けられるよう、他職種との報・連・相に努めよう!
終末期の身体症状と変化
終末期を迎えた人間の体はおおよそ一定の変化をたどります。その主な変化をまとめてみましょう。
尿量減少
腎機能や心機能の低下により血液循環量が減少し、徐々に濃縮尿となり尿量が減少していきます。
尿道カテーテルを入れていたとしても1日の尿量が10mlくらいということも。
逆に、100ml出ていても心肺停止に至ることもありますので、一概には言えませんが尿量の減少はおおよその目安にはなります。
浮腫
尿量の減少と共にみられるのが浮腫です。
尿を作りだす力がないにもかかわらず点滴などで水分を多く体に取り入れると体に水分がたまり浮腫を起こします。
また、血管の浸透圧もかわり、血管内脱水がおこり細胞組織に水がたまり浮腫をきたすこともあります。
脈拍の変化
心機能の低下から不整脈が起こったり、頻脈が起きます。
そして、徐々に今度は徐脈へと移行していきます。
呼吸の変化
呼吸機能も低下し、呼吸は次第に浅く弱くなっていきます。
弱った呼吸機能を代償するため、促拍したり下顎呼吸や喘ぎ呼吸などの努力呼吸も見られるようになります。
また、精神的不安からも呼吸が促迫することもあります。
こうした身体的変化が複数重なって表れてきた場合、かなり近い将来最期の時が訪れると予測されます。
看取りの時間を迎える前に
医師からもう残り時間が少ないことは伝えられていたし、家族も毎日来ているから大丈夫だろう…
と思っても、いざ最期の時を迎えたときに、家族との連携がうまくいかなくて慌てたり、バタバタしてゆっくりとした看取りの時間を作れなかった…
そんな経験はありませんか?
私たち医療者にとっては何度も経験していることであっても、家族にしてみたらすべてが初めてのことばかりです。
本当はこういう事も事前に考えておかなくちゃいけなかったのか!と後から気が付くことも多いはず。
そういったことを少しでもなくすために、医療者は家族へ何を準備しておくべきか、何を家族で話し合うべきかを伝えておく必要があります。
自宅から病院までの移動時間と手段
病状に変化が現れたらご家族に連絡を入れますが、どのくらいの時間がかかるのか、車があるのか公共機関やタクシーを使うのかということは事前に確認をしておくことが大切です。
1時間かかるのか、15分で来れるのかとかタクシーを呼ぶ待ち時間があるのかなどによっても連絡を入れるタイミングはかわってきます。
また、病院に家族が泊まれるシステムがある場合はそういったシステムを活用する希望があるのかも確認しましょう。
連絡先の確認
入院時にキーパーソンや連絡先は確認していると思いますが、看取りの時間が迫っているときには再確認をしましょう。
なかには、入院時と優先順位などの変更がある場合もあります。
病院からの連絡は一人に限定し、連絡を受けた人が他の家族にも知らせるようにしてもらえるようあらかじめ説明をしておいたほうがいいでしょう。
病院から家族各々に連絡がいくものだと思って、他の家族に連絡をしない人も中にはいます。
最期の時に立ち会う家族は誰か
私にも経験があるのですが、部屋に入り切れないほどの親族たちが来てもまだ揃ってないから死亡診定はしないでほしいと言われたり、かなり遠方に居る家族があと2時間で来るから待ってほしい…
などと、いざその場面になってから言われることもあります。
その時になると、身近な家族は死亡診定こそがすべてで、その時に必ず親族全員が揃わないといけないんじゃないかと必死になってしまいますが、本当にそれが必要なのか、それとも最後の診察を終えて不必要な医療器具を外し、お体を綺麗な状態に整えた姿を見てもらった方がいいのか、冷静に考えられるときに考えてもらったほうがいいです。
これらのことは最低でも確認しておくべきですが、確認するタイミングが重要です。
むやみやたらと聞けば、見放されたと感じたり、まだ生きてるのになぜ今そんなことを聞くんだと不愉快に思われることもあります。
自然な流れでこれらのことを聞くためには、医師の説明の後とかがいいかもしれません。
いよいよ残り時間は少ないということを医師から伝えられた時が、最も家族が最期の時について考えているときだと思います。
そのタイミングに確認することで、家族も考えやすくなるのではないでしょうか。
エンゼルケアのポイント
エンゼルケアは感染予防のためでもありますが、最も大切なことは患者さんの尊厳を守り、生前の患者さんの姿に近い状態にしてあげることで、家族の心のケアにもなる処置です。
エンゼルケアの処置方法は各病院施設により多少異なると思います。
ここでは、エンゼルケアで押さえておきたいポイントをご紹介しましょう。
死者に対する日本の習わし
和服を着る習慣が薄れてきているので忘れがちになってしまうのが浴衣の着せ方です。
通常は「右前身ごろ」といい、浴衣の前の合わせ方は着ている人の右手が胸元にすっと入るように合わせます。
ですが、亡くなった方の場合はこれが逆で左手が胸元にすっと入るように合わる「左前身ごろ」で合わせなくてはなりません。
浴衣の紐の結び方も通常は横結びですが、亡くなった方の浴衣のひもは「縦結び」にするのが習わしです。
それ以外にも宗教によっての習わしがある場合もあるので、信仰している宗教がある場合にはご家族に確認をしましょう。
こうした日本の習わしがあるのでエンゼルケアの時ももちろんですが、通常の更衣の介助の際にもくれぐれも間違えないようにしましょう。
エンゼルケアは大切な家族の心のケアの時間でもある
エンゼルケアは単に患者さんの体を綺麗に整えるためだけのものではありません。
エンゼルケアに家族が参加することで家族の心のケアにもなります。
必ず一緒に行うかどうかを確認しましょう。
顔だけ、手だけでも共に行うことで、最後のケアを自分たちの手でやってあげることができたという気持ちを家族が感じることができます。
そしてそれは、大切な人の死を受け入れるきっかけ作りにもなります。
家族が参加するときは先に点滴などの管類を抜去し、医療処置を終えてから参加してもらうようにしましょう。
大事な事はその人らしく整えること
エンゼルケアの時に行うメイクは、できるだけ生前のその人のお顔に近い状態にすることが目的です。
女性であっても、しっかり化粧をしているとわかるような不自然な顔色にならないように気を付けましょう。
義歯がある場合は極力装着した方が元気だった時のお顔に近い輪郭になりますし、口も閉じやすくなります。
ただし、生前食べられない時間が長かった方だと口周りの筋力も低下し、歯茎も痩せて義歯が合わなくなっている場合もあります。
その時には無理やりはめ込まず、ガーゼなどを歯茎と頬の間に少し入れて歯があったときの輪郭に近い状態に整えましょう。
看取りの看護で看護師が抱えやすい悩み
ここまでいろいろとポイントをご紹介してきましたが、やり直しがきかない看取りだからこそ、悩みも尽きません。
看取りの場面で看護師が抱えやすい悩みには、どんなものがあるでしょうか。
医師や家族を呼ぶタイミングに悩む
上記のような身体的変化を遂げて最期の時を迎えることは分かっていても、血圧が70台のまま一晩持ちこたえることもあったり、まだ100台だと思っていたらあっという間にストーンと落ちてしまう事もあったり。
人の体は教科書通りにはいきません。
そこで悩むのがコールのタイミングですよね。
ドクターコールは脈拍いくつ以下でドクターコールとか指示が出ている場合もありますし、なければあらかじめ指示をもらっておいたほうがいいですね、特に夜間は。
しかし、家族を呼ぶタイミングに指示はありませんから、医療者側の采配によります。
真夜中の電話はためらってしまいがち。私も幾度となく悩みました。
でも、早い分にはいいと思うんです。間に合わないほうが後で後悔につながります。
迷ったらまず、相談。夜勤であっても1人きりでコールの判断をしなくてはならないということはないと思います。
一緒に働く同僚に相談したり、医師に現状を伝えて家族を呼んだ方がいいか相談したりしましょう。
「死」への慣れに悩む
最初に看取った患者さんのことは、私もよく覚えています。
でも、今まで看取った方全員をはっきり覚えているかと言われたら、自信を持って「はい」とは言えません。
みんなそうだと思いますが、やはり何度も患者さんの死に直面しているうちに次第に「慣れ」が出てきます。
人の「死」に対して慣れてしまうことに、罪悪感をもってしまうこともあるのではないでしょうか。
でもそれは自然なことです。私たちは医療者で家族ではありません。
医療者は家族の気持ちに共感することは必要です。
ですが、家族と同じ目線で悲しんでいてはプロではありません。
ご家族に存分に悲しんでもらい、気持ちを表出してもらうためには医療者は冷静に全体を見ていなくてはなりません。
そのためにはそういった場面に「慣れる」ということも必要です。
その「慣れ」は看取りの場面において、いつも同じ対応をするということではありません。
毎回しっかりと患者さんの死と向き合い、自分の死生観を養いながら貴重な時間に立ち会わせていただくという気持ちを忘れてはいけません。
患者さんの死に対してしっかり敬意を持って対応していれば、そういった場面に慣れていく事自体はむしろ良いことだと思います。
最期の時まで点滴を続ける必要があるのか悩む
終末期の患者さんによく起こるのが浮腫です。
手足はむくみにむくんでもう血管なんて見えないし、あちこち注射の痕の痣だらけ。
そんな痛々しい手足にまだ点滴を続けることに意味はあるのだろうか。それは医療者のエゴではないのか。そういうモヤモヤを抱えることもありますよね。
そうした疑問を持ったらまずはカンファレンスを開きましょう。そしてみんなで考えてみましょう。
数人の看護師で考えてみても、今の状況で点滴を続けることが患者さんにとって負担の方が多いのではないかと思われるときは、医師に相談してみましょう。
1人で考えていても答えは出ないし、せっかく感じたその気持ちは大切にしてほしいと思います。
まずは、声を上げて提案してみることから始めてみましょう。
私がいた病棟では、やはり浮腫がかなり強くなった患者さんにとうとう点滴の針をいれることができず、医師との相談の結果一切の点滴を中止しました。
もちろん家族の同意を得てのことでしたが、その現状を他の部署の看護師長がみて、倫理的に問題ではないかと指摘されたことがありました。
病院にいて経口摂取が不可能である状況なのに、点滴を一切しないのは治療の放棄ではないか?と。
病院が、もしすべての経口摂取不能な人に、何らかの栄養補給を必ずしなくてはならないという取り決めでもあるんだとしたら、なんと不自由な場所でしょうか。
考え方は様々で良いと思います。看取りの時間に何を行うかに答えはありません。
その都度、医療者と本人とその家族とで話し合って決めていく事が全てです。
御家族の中には点滴をやめる=見放されたと感じる方もいらっしゃいます。
点滴で浮腫が悪化するというイメージが湧かないからです。
もしも、点滴をやめたり量を極端に減らす場合には事前に必ず家族にその必要性を説明して同意を得ましょう。
むくんできたから、点滴の針が入らないから点滴はやめようと勝手にやめてしまってはそれこそ医療者のエゴです。
まとめ
いかがでしたか?
少しはあなたの看取りの看護についての悩みが解決されましたでしょうか?
看取りの看護に正解はないし、やり直しもききません。
奥が深い看取りの看護についての悩みは尽きることはないかもしれません。
ですが、最も大切なことはそれぞれの患者さんとそのご家族の生きてきた歴史を尊重し、少しでもその人らしい最期を迎えることができるよう、精いっぱい関わっていこうという姿勢だということは変わりありません。
この記事が、あなたの看取りの看護についての悩みを少しでも解決する手助けになりますように。